smile survey COLUMN
【第4回】
満足度ポートフォリオの
多角的な切り口
作成日 2022年3月17日 / 更新日 2022年3月17日
満足度の項目の優先付け
満足度調査ではさまざまな項目を評価対象としますが、一様に満足度が低い場合、満足度の低い項目が多岐にわたる場合、それらを改善しようと一気に着手することは現実的には困難です。優先的に注力する項目を絞り込むことが必要になります。
その方法の一つとして、ポートフォリオという捉え方を以前紹介しました (スマサーコラム:ES調査の分析の視点)。そこで最もシンプルな切り口として、重要度を取り上げましたが、優先項目を判断する指標、切り口は他にもあります。
総合的・全体的な満足度
従業員の満足度はさまざまな項目で測れますが、それらを一言で括れば、一つに要約すれば、会社に対する満足度に行き着くでしょう。その包括的・最上層の項目である会社に対する満足度は、さまざまな観点から総合的に形成される全体的な評価なので、ここでは総合満足度と呼んでおきます。満足度調査の究極的な目標は総合満足度の向上とみることができます。
ちなみにアンケート調査では、項目を表形式の質問で聴くことがよくあります(表形式は行と列の構造なのでマトリクスとも呼ばれます)。ここで、総合満足度は最初に聴いておくことが一つの術です。総合満足度は全体的な印象なので、個別項目に先んじて(特定の項目に引っ張られることなくフラットに)聴いておきたいものです。
(総合満足度をマトリクスから切り離して、単独質問として先に聴ければなお良し)
相関関係と相関係数
そうすると、次に気なるのは総合満足度に関係する・影響する項目は何か、それはどのくらいの強さ・大きさか、ということです。
項目間の関係の強さを測る代表的なものに相関係数があります。相関係数は、-1~1の範囲で値をとり、マイナスなら負の相関(一方の値が上がれば、もう一方の値は下がる関係)、プラスなら正の相関(一方の値が上がれば、もう一方も上がる関係)を表します。関係の強さは概ね、相関係数の絶対値が0.2以上で弱い相関がある、0.4以上で相関がある、0.7以上で強い相関がある、とみるのが一般的です。
重要度に替えて、総合満足度との相関係数でプロットしても、優先付けの検討が可能です。
(見方については、スマサーコラム:ES調査の分析の視点を参照)
回帰分析と回帰係数
ただ、相関係数は項目間の関連性(相関関係)の強さを示すもので、影響の方向性(因果関係)を指していません。総合満足度をさまざまな個別項目の満足度から成るものとみるならば、個別項目は総合満足度を決める要因とみなせます。因果関係は数学的にいえば、関数Y=aX+bで表され、Yが総合満足度、Xが個別項目にあたります。この関係を分析する統計技法が回帰分析です(Xが複数ある場合は重回帰分析とも呼びます)。
回帰分析から算出されるXの係数(aの値)は回帰係数(さらに細かくいえば偏回帰係数)と呼ばれるものです。回帰係数は、その高低で各X(個別項目)のY(総合満足度)への影響力を捉えることができます。この計算結果から項目の優先付けが可能ですが、マップにプロットすると、視覚的により分かりやすくなります。各項目の満足度と総合満足度との回帰係数でのポートフォリオです。
指標の選択(より重要なこと)
優先項目を判断する指標として、項目の重要度、総合満足度との相関係数、総合満足度との回帰係数を紹介しましたが、どれを採用しても結構です。やりやすい、わかりやすい指標で十分です。そもそも、目的は満足度を向上させることにあり、これらの指標は優先項目を検討する際の参考材料にすぎないからです。重要なのは、とある項目の満足度を向上させるための施策や取組の内容であり、その実施成果の有無です。そして、継続してPDCA(Plan→Do→Check→Action)を回すことです。指標の一貫性が求められるので、いずれにしても拙速・安易に指標を変更することはお奨めしません。
しいていえば、大は小を兼ねる的な発想、より精緻な技法による説得力でいけば、相関分析、さらには回帰分析を採用する意味はあります。
なお、相関係数は、エクセルでも関数を使って算出できますし、実はいくつか種類があって奥が深いです。興味のある方は試したり調べたりしてみてください。また、回帰分析は、多変量解析と総称される技法の一つで、本稿では基本概要の範疇に留めていますが、専門的で難解です。興味のある方は調べてみていただくか、知識や経験のある方や業者にご相談ください。
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この記事のライター
石原 公英 (フロンティアマインド代表)
1965年生まれ。
新聞社系総合調査会社でリサーチャー、広告代理店系マーケティング会社でアナリスト、東証上場マーケティングリサーチ会社でマネージャー等を経て、2020年12月フロンティアマインド合同会社設立。